大蛇退治

神奈川県座間市

そう古くもないが、相模川にまだ帆を掛けた船が行き来していた頃の話。川中に源四郎山という小高くなった中州があって、松や茅が繁っており、まわりは夏になると子どもたちの格好の泳ぎ場だった。

ところがある夏、この源四郎山に大蛇が棲みついたという噂が流れ、子どもらは近寄るのを禁じられてしまった。遊び場を奪われた子どもたちは困り抜いた末に、大蛇退治をすることにした。そして、手に手に石や棒切れを持った十人ほどの子どもが川岸に集結した。

山を取り巻き四方から頂上へ大蛇を追い上げようということになり、ときの声をあげて一斉に駆け上った。しかし、皆が頂上へ躍り込むと、大蛇などおらず、大人の男衆が車座になって博打を打っていた。大人たちは驚いて散り散りになって逃げて行ったという。

『座間市史6 民俗編』より要約

子どもたちの大蛇退治。これでショートフィルムが出来そうな話だ。もっとも、源四郎山は「水と緑と風公園」の前あたりだったそうだが、今はもう中州もない。

確かに竜蛇譚に限らず怪の語られる背景にはこういったことが多かっただろう。怪異伝承の主要目的のひとつといってもいいかもしれない。蛇穴と恐れられた洞窟が、おとっつあんたちにしてみればバクチ穴だった、などという話もある。

無論色事にまつわる場所や、共同体間の縄張りの境(特に漁・猟場)にも「結界」が張られたことと思う。それが出自の妖怪というのも多いだろう。