おふくろさんという石

原文

(一)

諏訪神社の池から出たという、おふくろさんと呼ばれる石があるんですよ。日照りが続いたときにね、おふくろさんをなでると、雨乞いのかわりになるってことを言ってたんですけどね。それから、この石のおかげで、この谷戸だけは蛭というものがいなかったんだね。

なんで、おふくろさんて名前があるのか、はっきり知らないけどね、むかし、諏訪神社の池に大蛇が棲んでたんですってね。で、そのそばに石があったためにね、おふくろさんと呼んだらしいんだね。大蛇のおふくろさん、わたしは、こんなふうにきいてますけど。(石川 入内島松治氏 明治35年生・昭和50年4月)

(二)

諏訪って所は池がつきものだったんだがこの池もまあ、諏訪池といっていた。何かおふくろさんのいわれはあるらしいですよ。

昔、どういう人だかおふくろ(母親)を投げこんで、それが石になったんだという話はある。どういうわけがあったか、諏訪池へおふくろを投げこんで、そんで自分は恐らくこの土地から逐電しちゃったんでしょうよ。逃げるに重荷だから、池へおふくろを投げこんで行った。

お宮の後の石にお詣りすれば蛭がつかないというし、この辺には蛭はいない。雨乞いの時には、神輿といっしょに、あの石をかついでこの辺を歩くわけだが、なにしろでかくて重いもんだからーー。どういうことでおふくろさんと蛭とが結びつくんだか、どういう関係だかねえ。(石川 加藤吾郎氏 大正4年生・昭和50年4月)

藤沢市教育文化研究所
『藤沢の民話 第三集』