欅に祀る源龍大善神

神奈川県横浜市保土ヶ谷区

樹源寺に樹齢七百年という大欅があり、市の保存木となっている。二十一世の日建上人の時、病身床中の上人の夢中にこの大樹の主が現れた。天女が来て、自分は欅の洞に棲む白蛇である。朝夕の読誦に成仏できそうだ。我を源龍大善神と祀るならば病はたちどころに平癒するだろう、という。

夢覚めて、早速大樹の洞に小祠を祀ると、上人は忽ち快癒したという。それからは大樹にはしめ縄が張られるようになった。尚、寺には日蓮上人藤の曼陀羅というものも什宝となっている。

栗原清一『横浜の伝説と口碑・下』
(横浜郷土史研究会・昭5)より要約

寺は今もあるが、そもそも薬師を本尊とする医王寺であったものが、再興される際に樹源寺の名とされたのはその大欅の傍らであったことによるという。しかし、その大欅は昭和四十五年に伐採されてしまったそうで、寺の名にその記憶を残すのみとなっている。源龍大善神が今どうなっているのかは不明。

このお話で特徴的なのは、大欅に棲んでいる白蛇、なのではあるが、かなり「欅の化身である白蛇」というニュアンスが感じられるところにある。神木と蛇の話には、木そのものが蛇であるというものと、蛇がやってきて木に棲みついたというものとで微妙な違いがあるが、前者の一例になるだろう。