昔、雨間の雨武主神社の神様が、網代の弁天様に用事ができて、網代まで出かけることになりました。弁天様のすまいがある弁天山は、雨武主神社がある山の西にありました。神様は、いままでに何回か弁天山に行ったことがあり、その道順は秋川の北の原っぱを通っていました。弁天山に行くのにいつも同じ道ばかり通っていた神様は、
──たまには違う道を行くか。秋川谷をさかのぼってもいいし。
と道筋をあれこれ考えました。そのうち
──道が悪いかも知れないが、峯伝いに行ってみよう。この方が一本道だし、ほかの道を行くより早く着くだろう。
神様はそう思うと、大きな蛇になって山を降りると、西にある山に向いました。山の上に来ると、そこには尾根道があって弁天様の方へ続いているようです。神様は、どんどん進むことができました。しばらく行くと、谷に出会いました。向うの山へ行くには、谷の底まで降りて、また登らなければなりません。神様は
「仕方がない。下まで行くか。」
とひとりごとを言いながら、谷を降り、谷を登りました。そこには尾根道がありました。
神様は、谷があったためにひまをかいてしまったのでいそいで行くことにしました。ところが、また谷に出会いました。今度の谷は、前の谷より深く、降りたり登ったりするのにひまがかかりそうです。神様は、
──この先、いくつ谷があるか知れない。峯を行くより裾の方を通って行こう。
と考え、少しばかり谷に降りると、向きを変え、木や草が生えている山の中腹にはいって行きました。
後には、木や草が西をむいて倒れていました。
その後、神様が通った跡は、木や草が生えなくなり、地肌を見せるようになりました。