棚原のヌシ

原文

昔、伊勢参り行って、そん時にお札をもらってきてね、棚原の頂上へ、って、そこの、そこ森だったでしょう、その森から、影取り池と行ったり来たりした蛇ちゅうか、ヌシがあったらしいんだ。(男・明治生まれ)

見たのは、サツマ掘りに行って、うちの畑の上っかわAちゃんの畑だんべ。お茶の木植わってたんだよ。ヤマッカガシだったよ、それは。太いよ。で、そんなに長くはねえんだよな、太いんだよな。(中略)これが棚原のヌシだんべえと。(男・昭和生まれ)

お伊勢様行くと、そこは昔ね、Aさんが(畑を)作ったんだよ、その作代が朝草刈りに行ってね、草がすごくなびいていんだとよ。ヌシが歩いたあとだって真っ青になって逃げてったんだとよ。よくおやじがね言ってた。(座談会出席者)

大東亜戦争始まる前に、Aさんが言ったんだよ「棚原のヌシ見たから、これはえらいことが起こるよ」って。そしたら大東亜戦争が始まって。(座談会出席者)

棚原の主が動きだすと変事が起こるって。それは、おやじなんかが言うには、日清も日露もまあ、それとか関東大震災とか。おらは、胴体は見なかったけど、頭が大きいの。(正体は)ヤマッカガシだんべ。(座談会出席者)

多摩市史編集委員会
『多摩市の民俗(口承文芸)』より