蛇こしき

原文

巳年の平成十三年も、下半期に入りました。蛇にまつわる言い伝えを、いくつかあげます。

〔蛇こしき〕

○ヘービコシキは、めったに見られないもので、見るといいことがある。蛇が何匹かで、とぐろを巻いているのがヘービコシキ(和泉 飯田彦太郎さん 明治十九年生)。

○蛇が何匹も重なって、とぐろを巻いてね、真ん中に、みんなで頭を立てていることがある。それを見ると運がいいんだって(岩戸 三角トモさん 名儒三十一年生)。

古民家・荒井家の復元工事が進められていますが、その荒井家の先代当主の一さん(明治二十八年生)からも、次のような話を聞いています。

「子どものころ、ヤマッカガシがたくさん寄って、とぐろを巻いているのを見た。十匹ぐらいが頭をそろえて持ち上げているのだけれど、赤いので、とてもきれいだったんですよ。子どものことだから棒を持っていってね、とぐろに引っかけ、追おうとしたけど、途中で恐ろしくなって、やめて逃げ帰ったんです。そうして、家の者に話したら、それはヘービコシキというもので、見かけたら、そうっとしておかなけれがいけない。そういうものが出来ていると、その家にいいことがあると言ってましたね」。

蛇こしきは、蛇が何匹か寄りあって甑(米などを蒸す用具。せいろ)のように、とぐろを巻いた状態。蛇こしきを見ると金持ちになるとか、蛇こしきのなかに、かんざしをいれてやると、いいことがあるとかいいます。江戸時代の随筆にも蛇こしきがとりあげられ、備前平戸の藩主・松浦静山の『甲子夜話』や、『里見八犬伝』で知られる滝沢馬琴の『兎園小説外集』などにも記されています。

〔蛇のぬけがら〕

○蛇のぬけがらをだいじにしまっておくと、着物に困らないし、お金がたくさんたまる。蛇のぬけがらのそっくり残っているのを、ぬけがらはカラカラになってますからね、たたんで半紙にくるんで水引をかけて、たんすのひき出しに入れておくんです。衣装やお金には困らないってね。ぬけがらは、きれいですよ、真っ白でね。よくあったんです。(岩戸 三角トモさん)

○蛇のぬけがらをしまっておくと、願いごとがきく。首が北を向いてぬけているのが一番いい。蛇のぬけがらは、よくとっておいたものでした。願いごとが叶ったら、紙に包んで多摩川に流しました。自分だけで、人にわからないように、しまっといてね、何回かやりました。(和泉 石井キサさん 明治三十二年生)

平成13年7月15日掲載

井上孝・中島恵子
『狛江・今はむかし』
広報「こまえ」1000号発行記念事業実行委員会より