四ッ谷うなぎ

原文

日野本郷の四ッ谷村に、宗丸という、まことに聡明な少年がおった。日之宮の神官の家に生まれ、三歳で祝詞を覚え、五歳で和漢の書を読み、七歳で天地の学に通じたということじゃ。

さて、ある年のこと、四ッ谷村一帯に、うなぎが異常に発生した。小川や田んぼ、沼や池、はては家々の井戸にまで現れた。

「これは、いかな理由か」と、村人は、日之宮の神官に相談した。ところが、神官にもその原因が解けなかった。その時、宗丸が、「これは、日之宮の御祭神のお告げで、大洪水の前ぶれと思われます。みなさんを、すぐ高台に避難させてください」といった。

はたして数日後、多摩川上流に豪雨があり、激流が村をのみこんだ。しかし、村人は、一人残らず無事じゃった。

「まこと、宗丸は神童じゃ」と、村人は感服した。それからのち、村人は、うなぎを大事にしたという。そして宗丸は、成長して、立派な神官になったそうじゃ。

菊地正『とんとんむかし』
(東京新聞出版局)より