四ツ谷うなぎ

東京都日野市

日野本郷四ツ谷村に、宗丸という聡明な少年がいた。日之宮の神官の家に生まれ、七歳で天地の学に通じたという。

ある年、四ツ谷一帯にうなぎが異常に発生した。小川や田んぼ、沼や池、家々の井戸にまでウナギは現れた。これはいかなることか、村人は日之宮の神官に相談したが、その原因はわからなかった。

ところがその時、宗丸が、これは日之宮の御祭神のお告げで、大洪水の前触れと思われるので、皆をすぐ高台に避難させるように、と言った。はたして数日後、多摩川上流に豪雨があり、激流が村をのみこんだ。しかし、宗丸のおかげで一人残らず無事であったという。それから村人たちはうなぎを大事にし、宗丸は立派な神官になったそうな。

菊地正『とんとんむかし』
(東京新聞出版局)より要約

日野市の西姓日奉氏縁の日之宮・日野宮神社(があるのがかつての四谷村)の本地仏は虚空蔵菩薩であり、かつて多摩川の洪水のときに壊れかかった堤防の穴に鰻が入り込んで洪水から村を守った、というような伝説がある。今は日野宮神社は天御中主尊・高魂尊、及び日奉宗頼・宗忠を御祭神とする神社だが、さらに引いたような話もあるとなると、元は虚空蔵さんであったと見てよいだろう。

日奉─平山氏末流が住んだ檜原(日の原)村の檜原城跡城山頂上にも虚空蔵菩薩が祀られているという。太陽祭祀を行う氏族の出であると思われる、西党日奉氏が何故虚空蔵さんを祀り鰻を大事にするのか、というのはよくわからないのだけれど、こういった話がある以上は何かがあるのだと思われる。