浅間山の大蛇

原文

〈話者〉若松町 河内たけ(T2生)

〈調査者〉高津美保子

大蛇がいて、浅間山からね、国分寺へ草がこうなびいているんですって。そのなびいたあとをつけていきますと、国分寺の川に入っちゃった。そいで、その先に橋がかかってて、橋がかかっていると思って渡ろうとしたら、すると大蛇だった。

(補注)話者は三鷹市出身

 

:浅間山の大蛇 一

〈話者〉若松町 河内たけ(T2生)

    紅葉丘 福島シマ(T2生)

〈調査者〉高津美保子

そこんとこに(浅間山のおみたらし)杉の木があったのね。その杉の木に、すごい大蛇がいたの。

おばあちゃんが、たきぎを取りにいってね、疲れて腰をおろそうとしたら、(枝が)持ちあがったの。それでびっくりしてね、家までとんで帰ったの。それがすごい大蛇でね、何百年もたったような蛇。浅間山の守り神だったんでしょうね。あの浅間山の、木花咲耶姫命の。神社を祀ってある裏側に、おみたらしがあるんですね。

そのおばあちゃんは、それからじき、亡くなっちゃったんです。四代前くらいのおばあちゃんだって聞いてますよ。

 

:浅間山の大蛇 二

〈話者〉若松町 田中トミ(T10生)

〈調査者〉間宮史子・剣持弘子

浅間山におみたらしというわき水があり、どんな旱魃でも水が絶えることがない。昔ほどではないが、今も水がピチャピチャ出ている。

遠くの方から一升びんを持ってもらいに来て、水の垂れる所へ置いておく。雨乞いにも使った。主(大蛇)がそこにいるということである。

家の方の八十過ぎのおばあさんが、昔だから、たきぎとりに浅間山へ行き、くたびれたから、松の枝だと思って腰かけたら、それが大蛇で、首を持ちあげたのでびっくりした。家へ帰ってきて、なにかびっくりして病気になり、じきに死んでしまった。

蛇久保台という所があるから、まんざらじゃないと思う。

蛇は小平にはあまりいなかったが、嫁に来たころは、このあたりには本当にいっぱいいた。湿地だからだろう。

けやきの木が汗をかくと、蛇が出るぞとか、雨がふるぞ、とかいった。

蛇はたたるから殺してはいけないといわれた。

たたるということはあり、自分にも覚えはある。たたった話はあるが、悪いから、ここではいえない。

蛇は毛虫のように悪いことはしない。ただ長くてざまが悪いから嫌われるのだ。(要約)

 

:浅間山の大蛇 三

〈話者〉白糸台 岡田タカ(M34生)

〈調査者〉森田恭子

山があるんです、浅間山っていう。その一番上にお宮があるんです。階段をずっと登ってくんです。そいで昔はもう燃料にも困るしね、みんな貧乏人ばっかりですから。だから浅間山っていう山にたき物取りぃ、おばあさんたちが行ったんですって。

でぇ帰りにね、「ああ疲れちゃったな、ここいらでひと休みしていこうよ」っちゅうのでね。ちょうど松の木のころあいのがね、腰かけのころあいが、こうあったんですって。ああじゃこの松の木ぃ腰かけよっつって、そしたらズルズルズルーっと動き出したって、そういう話もありました。

昔は、んだから浅間山ってすごかったんでしょうね。

蛇が、松の木と同じ、ちょうど蛇の苔っていうものはね、あのーまぁ、こんな細いもんならあれだけど、大きな松の木の苔みたいに見えたんでしょう、年寄りだから。

うそじゃないのかもしれませんね。

 

:おみたらしの大蛇

〈話者〉若松町 加藤松太郎(M42生)

〈調査者〉中村智子

西っかわのほうに、おみたらしっていう所があるんですよね。今でも水が出てね、夏の渇水した時でも水の絶えたことのないとこがあるんですよ。そこに、わたしらの子どもの時分にはね、藤の木のでかいのがあってね、木がおいしげってて、子どもなんか昼間でもおっかなくてね、行けないようなとこだった。年寄りがよくいったけんどね、そこに大蛇が住んでるってね。

ある、人見の部落のおばあさんが、たき木取りにその山へ行ってね、大きな松の木が倒れてたんでね、もうたくさんたき木取ったんで、少し一服してやすんでいこうと思って、その松の木に腰をおろしたらね、松の木が動きだしたってんですよね。それが、その大蛇だったって。そのおばあさんがびっくりしてね、家ぃ帰ってきて、病気んなって寝こんじゃって、そのまま亡くなったっていうようなことは、年寄りにきかされたことがあります。

だから、おみたらしのほうへ行くと、大蛇がでるから遊びいくじゃない、なんてね。

その大蛇が、貫井の弁天さまの池とね、井の頭公園の弁天さまの池と、そのおみたらしと三か所、行ったり来たりしているんだってね。

 

:浅間山のおみたらし

〈話者〉紅葉丘 渡辺勝義(M39生)

〈調査者〉弓良久美子

浅間山のおみたらしは、どんなに旱魃な年でも枯れない。大雨がふっても出かたがタクタク、そんなにドーッとは出ないと。それは神様のご利益じゃないかということらしい。特別ないわれは聞きませんがね。

(補注)話者は小金井市出身

府中市立郷土館
『府中の口伝え集』より