氷川様の蛇

東京都中野区

東中野の氷川神社の階段の、石段を上がりまして左側にね、大木があるんですよ。直径一メートル二、三十あるんじゃないのかなあ。そこにですね、とにかく蛇の巣で、蛇が、もう、とにかく木の中にうずくまっちゃうんです。

それほどね、蛇がいて、白蛇が混じってたということも聞いたですね。もう、とにかく、のぞけば蛇がね、もう本当に、それこそ大蛇っていうんでしょうか。すごいね、蛇の巣なんですがね。わたしども神社の下で生まれてますから、もう何か言うと、あの、おじいちゃんやおばあちゃんが、「あんまりうるさいこと言うと、蛇に食わしちまうぞ」なんて言ってね。こう言うんでね。

まあ、大蛇でしょうな。「大蛇に食わしちゃうぞ」って言うと、みんなが、わたしども怖気ちゃうというようにね。蛇がもう、こんな大きな空(うろ)ん中に、うやうやいるんです。そいで、時季によって出てるわけですね。(中野 男 明治41年生)

中野区教育委員会
『中野の昔話・伝説・世間話』より原文

世間話というのは語り口のままでないとその印象が伝わらないことが多いので、これもそのまま引いた。ここはかつての中野村の総鎮守である氷川さんで、源頼信勧請という(実際どうかはともかく)伝の立派な神社だ。

ただ蛇どもが巣食っていただけかというと、やはり蛇がいたという上高田の氷川さんのほうでは「氷川様のお使いひめだから」と語られるので、中野氷川神社でもそうだったのだろうと思われる。そういった蛇を使いとする氷川さん、という事例。