なわの大蛇で村を救う

原文

奥沢の村では、くる年もくる年も、秋風がふくころになると、村の人たちのからだがだるくなりました。

村では、これから秋のとり入れがいそがしくなるというのに、これではどうにもなりません。そこで、村の名主さんやお寺のお尚さんや神社の神主さんが集まって、いろいろ相談しました。

「どうもこの村は、魔物がとりついてるようだ。村の入り口を清めてはどうだろう」

つぎの日から、村のさかいや入り口を村人がそう出で清めに歩きました。

けれども村からは、病人はなくなりませんでした。

名主さんの家でも、働きざかりの長男が、熱を出してねこんでしまいました。つづいて、となりの村から嫁いできた長男のお嫁さんも、床についてしまいました。

ついに元気な名主さんまでが、朝から高い熱で、食べ物もとれなくなるしまつでした。名主さんが熱でうなされていると、まくらもとに八幡の神があらわれました。

「村の祭りには、四本柱の鳥居に、なわであんだ蛇を巻きつけなさい。祭りの前に、村じゅう大そうじをすることです。それに、水は飲まないで、お湯をさまして飲みなさい」

名主さんが、はっとして目をさますと、そこには、神様はいませんでした。

名主さんは、熱がひいてから、八幡の神のおつげにしたがって、村の祭りに間に合うように、

「それ、なわの大蛇をつくれ。村の中のやぶやどぶをきれいにしろ。きたないゴミは、燃やしてしまえ。家の中は、風通しをよくするんだ。なま水は、決して飲むな。村の祭りは近いぞ」

と、村を歩きまわりました。

ふしぎなことに、奥沢村は祭りの日から、病人はいなくなったということです。

櫻井正信『せたがやの民話』
(世田谷区区長室広報課)より