十寄神社の大蛇 東京都大田区 蛇は、いい声で鳴きますよ。ルルルル、ルルルルって、こういうふうに、鳴きますよ。あれ蛇の鳴き声だって言ったもん。そいで、でかい銀杏の木が十寄神社にあるんですよ、千年ぐらい経った。あん中にいたの、大っきい蛇、うわばみが。夜になると鳴きましたよ。うわばみはあれでしょ、あったかい物、食べるんじゃないですか。冷たい物、蛙やなんか食わないんじゃないの、蛙もヒキガエルは食うけどね。ネズミだとかヒキガエルをね。(今泉 男 明治39年生・中島) 大田区教育委員会大田区の文化財 第二十二集『口承文芸(昔話・世間話・伝説)』より原文 短いものだし、世間話の態のままが良いだろうということでそのまま引いた。十寄(じゅっき・じっき・とよせ)神社は多摩川に程近く、渡しのあった付近ではあるが、水神自然神の社というのでは全くなく、新田義興に従ってこの渡しで謀殺された十騎の霊を祀った社(「十騎」が「十寄」となったのだという)。 千年の銀杏の木というのは不明。おそらく今はない。こういった神社の大蛇といって、それはヌシ(地主)なのか、使いなのか、多摩川の大蛇が棲みついたという話なのか、とニュアンスがよくわからないのだが、ともかく「鳴く蛇」の事例ではある。磯子の蛇のように雨を告げたりしないのは残念だが(「伊勢宮の雨蛇と烏」)。 ツイート