六郷神社のお使いひめ

東京都大田区

私のお祖父さんが羽田から船で六郷に乗り込んだとき、南風で寄せられて竿を突っ張ったところに、大きな蛇がいた。船の船霊様は女の神様だから、蛇を嫌がる。長虫といってよくないので、じいさんは、そんなとこにいると悪い奴に殺されるといけねえから、早くどっか行け、と蛇に言ってやった。

その後荷物を積んで出ようとしたら、まだそこに大蛇はいた。じいさんは、まだいるのか、悪いことは言わねえ、早く帰れ、とまた言ってやった。三度目のときはもういなかったという。

その後、じいさんが神社に行ったら、その蛇がいたという。神社のお使いひめは尻尾が切れているので、同じ蛇だとわかった。じいさんが、よく帰ってきたな、といったら、蛇は親しみを寄せるようにペロペロ舌を出し、お辞儀をしたとか。

また、六郷神社のお使い蛇はやはり尻尾が切れていて、松の根のところに巣を作っていたと別の人もいう。そこに真っ白でぶよぶよしたチャボの卵くらいの卵を二、三十も生んだそうな。

そして、拝殿の右側の格子窓から、お使い蛇は始終出入りしていた。右のほうには六郷神社の白旗の大杉があったが、そこの根にも巣を作っていたそうだ。

大田区教育委員会
大田区の文化財 第二十二集
『口承文芸(昔話・世間話・伝説)』より要約

すっかり狛犬さんで知られるようになった六郷神社は、八幡さんなのだけれど、このように蛇を使い姫とした、という話がまま語られる神社でもある。大田区では六郷から多摩川を丸子に上った光明寺の池の蛇と、洗足池のヌシの話が多いが、次いでこの六郷神社の蛇という感じだろうか。

ともかく、お使い姫らしい蛇のいろいろな特徴が語られているが、特に、船・船霊(ふなだま)さんは蛇が嫌い、という点が強調されているところはよく覚えておきたい。