私のお祖父さんが羽田から船で六郷に乗り込んだとき、南風で寄せられて竿を突っ張ったところに、大きな蛇がいた。船の船霊様は女の神様だから、蛇を嫌がる。長虫といってよくないので、じいさんは、そんなとこにいると悪い奴に殺されるといけねえから、早くどっか行け、と蛇に言ってやった。
その後荷物を積んで出ようとしたら、まだそこに大蛇はいた。じいさんは、まだいるのか、悪いことは言わねえ、早く帰れ、とまた言ってやった。三度目のときはもういなかったという。
その後、じいさんが神社に行ったら、その蛇がいたという。神社のお使いひめは尻尾が切れているので、同じ蛇だとわかった。じいさんが、よく帰ってきたな、といったら、蛇は親しみを寄せるようにペロペロ舌を出し、お辞儀をしたとか。
また、六郷神社のお使い蛇はやはり尻尾が切れていて、松の根のところに巣を作っていたと別の人もいう。そこに真っ白でぶよぶよしたチャボの卵くらいの卵を二、三十も生んだそうな。
そして、拝殿の右側の格子窓から、お使い蛇は始終出入りしていた。右のほうには六郷神社の白旗の大杉があったが、そこの根にも巣を作っていたそうだ。