呑川の流れは、弁天神社の近くでつよく曲っていますが、土地の人たちはそこをかんまがりとよんでいます。ひんまがっているということです。
この、かんまがりの里に、むかし、おじいさんと娘とが住んでいたそうです。この娘さん、非常に親孝行でもあるし、料理を作るのが上手でした。
ある年の夏、辰巳の風(南東の風)が前の晩から吹き荒れたそうで、夏の事ですからきまって台風が来るわけですね。そのとき呑川がはんらんしたんです。
台風がおさまったときの朝、川へ出てみたところが、はだかの若者が川のふちにたおれていました。
その若者をおじいさんと娘とでかいほうしたのですが、そうしますと、若者は息をふき返しました。
その後、若い男と若い娘のことでしたから結婚することに話がはこんで行きました。
娘は料理を作るのがうまかったわけですが、助けられた男は「どうして自分の嫁ごはこんなにうまいものが出来るんだろう。」と思ったんです。
男は、娘が料理するところを見たくなって、こっそりと見ることにしました。
そうしたところが、娘は夕方になると家を出て行く。男は、なにをするのかと思いながらついて行った。すると、娘はへびをつかまえた。どんなへびか知りませんが、娘はそのへびから料理のだしを取ったんです。
それを使ったものを食べさせられていたというので、男はたいそうびっくりしました。
見られた女は、ないしょにしておいてくれと男にたのみましたが、男は、へびを食わされていたんだということで娘への恐怖の気持を強く持ちました。
そして男は「なにをかくそう、実を言うとわしは、人間ではなく呑川のかんまがりに住んでいたうなぎなんだ。わしの姿に似たへびをつかまえて料理のだしを取るとはおそろしい。」と話しました。
男の話をきいて娘もおどろきました。
男は自分の身のうえ話をすると、もと居た川へ帰って行ってしまった。
それからのことですが、娘は世をはかなんで川へとびこんでしまったそうです。(大森 女 『みなみだより12』)