田代池

原文

田代村(今の、西畑村田代区の地。)と、弓木村(今の、西畑村弓木区の地。)との間の深谷から発するところの水は、田代池に至って瀑布となる。高さ七十尺、闊さ九十尺、下流は、長崎川となって夷隅川に這入る。里俗に、古昔、妖蛇があって、大多喜の蛇池に棲んでいたが、逃れて此池に移り住み瀑布の両岸巌石高く聳ゆるあたりに、巌窟を穿って此処に棲んでいた。瀑布の傍、老松の下に、時時赤気が現われて柱のように見せ、倏ち変じて一団となり、瀑布の上に飛び去り、又時としては、白蛇となって種種の怪をした。土地の人は盡くこれを知って、暫々池の中に石を投げ込んだので、池の妖蛇は、驚いて、此池を去り、再び撲沢(うつざわ)池に移って行った。瀑布の傍、今なお昔妖蛇の住んでいたという巌窟を存している。(「総國志」)(「蛇池」及び「内梨瀧の大蛇」参照。)

藤沢衛彦『日本伝説叢書 上総の巻』
(日本伝説叢書刊行会)より