そそけ牛蒡

原文

長柄村六地蔵区の関姓・長澤姓を称える者の家では、決して牛蒡を作らない。昔、此二姓の先祖が、蛇をいじめて、むごたらしい殺しようをした事があった。何でも、蛇狩りをして見つかり次第、逆さに吊して、鱗を逆さにしごき、惨めな殺しようをしたのだという。それが大変此両姓を名乗る者の家に祟って、其年に植えつけられていた牛蒡に、鱗がそそけ立って生えた。どの牛蒡もどの牛蒡も、恐ろしくて、とても食用にならなかったので、それからは両姓の家では、永く牛蒡を作らなかった。こうして幾年をか過した。両家の何れかの幾代目かの子孫が、そんな不思議なことがあるものかと、先祖代々の言い来りを破って、牛蒡を植えつけて見たところが、やっぱり鱗のそそけたったような、恐ろしげな牛蒡が出来たので、もうもう、決して、両姓の家では、牛蒡を作らないことにしてしまったという。(口碑)

藤沢衛彦『日本伝説叢書 上総の巻』
(日本伝説叢書刊行会・大正8)より