六地蔵の関・長澤姓の家では、決して牛蒡を作らない。昔、二家の先祖が蛇をいじめてむごたらしく殺した。逆さに吊るして鱗を逆にしごき、惨めな殺しようをしたのだという。これが祟り、その年に植えた牛蒡に鱗がそそけ立って生えた。どの牛蒡もそうなり、恐ろしくてとても食えず、以来牛蒡を作らなかった。
しかし、幾代目かの子孫が、馬鹿な話であると、この禁忌を破って牛蒡を植え付けたところ、やはりそれは鱗のそそけだったような恐ろしげな牛蒡ができたという。以来、決して牛蒡は作らぬ、ということになった。
作物の禁忌の話。蛇で作物の禁忌というと瓜・南瓜、天王河童が絡めば胡瓜、蛇の神が目を突いたともなれば、その目をついた作物が色々、という具合だろうが、蛇の祟りが牛蒡に表れたので作らない、というのは他で聞いたことのないものだ。
牛蒡は見るからに伸びた蛇のようなので、それを蛇に見立てる(あるいは蛇を牛蒡に見立てる)という話はあるが、鱗がそそけたような牛蒡、というのはどのような状態なのだろうか。なぜ、こういう禁忌が必要なのか。