大寺の龍尾寺

原文

それは、それは遠い昔のお話じゃ。下総の国の印旛沼の地方では、雨が一粒も降らず、来る日も、来る日もお日様がギラギラと照りつけていたそうな。

「ああ、いつまで、この日照りは続くんじゃろう。このままでは、わしらの食い物も尽きてしまうわ」 

「あしたこそはなあ、雨が降んねえかなあ」

村人たちの願いもむなしく、日照りは続き、飢えで死んでしまう者も、出て来る始末じゃった。

このことを知った天皇は、釈明というお坊さんに雨乞いの祭りをやって、雨を降らせるよう命じたそうな。

早速、釈明は印旛沼に船を漕ぎ出して、沼の真ん中で、“海龍王経”などを読み続けて、龍神様に、お祈りをした。

それは、それは、命がけのお祈りだったそうな。

一日、二日、三日と、釈明の声は絶えることなく沼のあたりに響き渡ったそうな。

すると、どうでしょう。三日目の夕方、ちょうどお日様が地面にかくれる頃のことじゃった。

「ザザザザーッ」

ものすごい波の音とともに、沼の中から龍神様が現れたのじゃった。 やがて天に舞い上がり、暮れゆく空の中に姿を消したそうな。

と、その時じゃった。

突然、真黒な雲が地面から、もくもくと舞い上がって、いなずまと雷鳴の中で渦巻きが起こったそうな。

「ポツリ、ポツリ」

天から大粒の雨が落ちてきましたと。だんだん雨は激しくなって、一日二日と降り続いた。

今まで、ひび割れしていた田んぼも、枯れ草同様の畑の作物も、生き返ったと。

「助かった。助かった」

「ありがたいことだ。ありがたいことだ」

村人たちは、天にも昇る思いで、手を合わせ、読経したそうな。

七日目。その日は特にすごい雷光と雷鳴の日じゃった。

「ぴかっ」

「ズズーン。バリバリバリッ」

天も地もふっ飛ぶような雷鳴が、とどろき渡ったそうな。

「ああっ。龍の体が……」

村人たちは、一瞬、凍りついたように立ちどまった。三つに裂けた龍の姿を見たのじゃった。

私たちを救ってくれた龍……。 村人たちは三つに裂かれた龍の体を捜しにに出かけたそうな。

すると、二本の角のついた頭は安食に、腹は本埜に、尾は大寺に落ちていたのが見つかった。

「おらたちの身代わりになってくれた龍よォー」

「わしらの神様じゃー」

変わり果てた龍を見つけた人々は、それぞれの地で供養することにしたのじゃった。

頭部は、石の唐櫃(からびつ)に納めて龍角寺(りゅうかくじ)の堂前に埋めた。

腹は、本埜の地蔵堂に納めた。尾は、大寺の寺に納めたそうな。龍角寺、龍腹寺、龍尾寺とそれぞれ寺の名前なったと。(原話 房総の民話、千葉県の歴史、北総誌史)

匝瑳市webサイト「伝説とむかし話」より