大蛸の逆襲

原文

昔むかし、南無谷の雀島近くに大蛸が棲んでいたそうです。そこは潮が早く、しかも恐ろしい深みの所でしたが、あるとき、磯遊びの好きな百姓が、得物の包丁を持って潜り、その大蛸の足を一本切り取って帰ってきました。

ところが、その足が一丈(約三メートル)もある大物だったため、食べたらどんな味かと話題になりましたが、気味が悪いと貰う者はおりません。そこで百姓が試しに刺身にしますと、今まで食べたことのないような、それはおいしい味だったのです。味を占めた百姓は、次は酢蛸で、次は醤油煮でと、毎日潜っては一本づつ切り取り、とうとう七本目の足まで食べてしまいました。

大蛸にとっては、二本や三本の足を切り取られても、また生えてきますから、なんともないのですが、一本無しにされてはたまりません。怒って百姓が来るのを待ち構えていました。

八日目に、そうとは知らぬ百姓が、今日は最後の一本の足をと、雀島から飛び込みました。その瞬間です。大蛸の最後の足が、岩を巻き上げ魔物のように踊りました。百姓はどうなったか分かりませんが、二度と波の上に帰りませんでした。

生稲謹爾『富浦の昔ばなし』(富浦町)より