竜王の子の約束

原文

昔むかしのある日、漁師たちが沖に仕掛けた網を引き上げていました。

しかし、なぜかその日は不漁で、雑魚一匹掛かっていないのです。最後の網もあきらめながら引きますと、こんどは大きな手応えがあって、頭が竜のような怪魚が一匹上がってきたのです。

「魚の獲れねえのは、こいつのためだっぺ。叩き殺してしまえ。」

「いや、見た事もねえ気味の悪い奴だ。持ち帰って見世物にでも売るべえ。」

漁師たちが勝手な言い合いをしていますと、驚いた事にその魚が口を利いたのです。

「私は海の底に住む竜王の子です。うっかり網に掛かってしまいましたが、逃がしてくれたらお礼をします。」

漁師たちは魚に答えました。

「竜王様は俺たちを海から守る神様だ。その子なら逃がしてやるよ。お礼と言ったが、お前にできる事なら何でもいいよ。」

「お礼は、時化が近づいたら、海の底から太鼓を叩いて知らせます。約束しますよ。」

逃がしてもらった魚は大喜びで海底深く消えて行きました。その時から、時化が近づくと、「ドドーン、ザザー」と音がして、波が船に当たるようになったそうです。

生稲謹爾『富浦の昔ばなし 第二集』
(NPO富浦エコミューゼ研究会)より