竜の目

原文

この白浜の山の麓に、宝杖院さんちゅうお寺さんがあったでよ。

昔、おりゅうさんちゅう女の人が生まれたばっかりの赤ん坊を抱えて宝杖院さんの所に訪ねて来さっただと。そんでもって、わけあってどうしてもこの子と一緒にいらんねえからどうか預かってくれねえかって、必死に御前さんにお願げえすっだとよ。

見っと、おりゅうさんは、目が見えねえだってよ。そんで御前さん、可哀想に思って、赤ん坊、預かったと。そうしたら、おりゅうさんちゅう人が、この子が泣いたら、これをしゃぶらせれば泣きやむからって、布に包んだ物を置いてったてよ。

そんでもって、赤ん坊が泣くたびにしゃぶらせっと不思議と泣きやむだちゅうとよ。包みの中のものは、白っぽい玉が2つ入っていたってよ。

ある晩、宝杖院の池のそばの柳の木がじゃまだって、御前さまと植木屋さんが柳の木を切ってたら、柳の木から赤い血が吹き出たてよぉ~。そんでもって、おったんまげて(驚いて)柳を切るのをやめたら、その晩、御前さまの夢まくらに、目のない竜が立ったんだと。

お寺にあずけた赤ん坊が心配で、池のそばの柳になって、赤ん坊を見てっから柳を切らないでくれって、言うんだってよォ。

そんでもって、あの布の中の玉は、竜の目でその目が赤ん坊を育ててたって、わかっただあと。宝杖院さんの柳は、百年以上も、もっと前からの木で、今でもあるとのことだよ。

池は、つぶしただがね。この話は、家のばあさんから、小さい頃、よく聞いた話でもっといろいろあっただが、忘れっちまっただあょ。

 

【このお話は、原の故平野かんさん、当時83歳が「海女の語る民話」で1980年に日本民話の会の藤かおる氏が聞き取り調査で採集された白浜に残った貴重な民話です。この度、千葉大学文学部、藤先生のご了解を得まして掲載することが出来ました。】

白浜町『白浜の民話』より