手長婆

原文

千倉町白間津地区の氏神に近い山腹に、「手長婆の洞」と呼ばれる2つの洞穴があります。

昔むかし、その洞穴に手の長い一人の婆が住んでいました。里人たちは、その婆を手長婆と呼んでいましたが、婆はどこの生まれか、どんな気性の者なのか誰も知りませんでした。なぜかと言えば、婆の手がたいそう長くて気味が悪い上に、顔が鬼婆のように怖いので、誰も恐れて付き合わなかったからです。

そのため、婆はまったく一人ぼっちでした。話し相手は一人もなく、朝夕暗い洞穴に住んでいるのでした。

その婆の唯一の慰みは磯物を捕ることでした。捕るといっても浜へ出てではなく、洞穴に座ったまま、里越しに長い手を伸ばして磯物を捕るのです。大川と白間津の境辺りの浜はいつも婆が手を伸ばすところでした。

手長婆は随分長生きをしたようですが、しかしいつ死んだのか、またどうして死んだのか、少しも分かってはいません。今、その婆が住んでいた洞穴を訪ねて、その内部を掘りますと、鮑や栄螺などの貝殻がたくさん出てくるそうですよ。

南房総市webサイト
「市にまつわる民話」より