和泉池のお話

原文

日吉神社の近くに、和泉が池と呼ばれる池があります。「和泉池の底知らず」といって、東金七不思議の一つに伝えられています。和泉池は、むかしは、東金の人々に水を送った水道源でもありました。この和泉池に伝わるお話をしましょう。

 

むかしむかし、和泉どんと呼ばれる大金持ちがいました。和泉どんは、田や畑をたくさん持っていました。

ある年のことでした。東金のこのあたりには雨が降らないで、田や畑の作物はどんどん枯れ始め、せっかく育てた稲も、枯れてしまいそうなほど日照りが続きました。

村の人たちは、「どうか、雨を降らせてください。」と、神様や仏様に雨ごいをしたり、「どこか水がねえかな。」と探しまわったりしましたが、どこにも水は見つかりませんし、雨も降らず、日照りはいつまでも続きました。

和泉どんも、どうしたらよいか、いろいろ考えましたが、どんな名案もうかばず、ある日とうとう、日吉神社におまいりして、

「どうか、日照りの害から守ってください。もし、お守りくださって、お米がたくさん取れたら、娘を神様にさし上げます。」

とお祈りして、一生懸命にたのんだのです。

その願いを、神様が聞いてくださったのでしょうか、雨は降りませんでしたが、和泉どんの田んぼの稲だけは助かって、秋には、たくさんのお米が取れました。

和泉どんは、うれしさのあまり、神様とかわした約束をすっかり忘れてしまいました。

ところが、しばらくして、一人娘が熱を出し、医者の薬を飲ませても、熱が下がりませんでした。この娘さんは、それはそれはきれいなかわいい娘さんで、和泉どんが一番かわいがっていた娘さんでした。娘さんは、熱のために、食べるものも減り、だんだんやせてしまいました。

ある日、娘さんが、

「お父っあん、やつの池の水が飲みたいよ。」

と、言い出しました。やつの池というのは、日吉神社の裏側にある大きな池で、山からのしぼり水がたまったきれいな池でした。和泉どんは、

「そうかい。それじゃ、くんで来てやっべよ。」

と言いましたが、娘さんは、

「私を、池まで連れて行って飲ませてくったいよ。」

と言って、聞きません。とうとう、和泉どんは、娘さんをかごに乗せて、連れて行きました。

娘さんは、池につくと、ヒョロヒョロしながら水辺まで行き、手をのばして水を飲もうとしました。そして、みんなが心配そうに見ている目の前で一口水を飲むと、身をおどらせて池の中にとび込んでしまったのです。みんなは、「アッ」と声をたてました。和泉どんの、

「娘を助けてくれ。」

という声で、近くにいた人たちが池の中に飛び込みましたが、「底知らず」と言われた池です。どろ深くて、身うごきもできず、とても娘さんを助けることはできませんでした。みんなの目の前でみるみるうちに娘さんは、池の中に沈んで行きました。

娘さんの姿が池の中に沈んでしまったかと思うと、その身代わりのように、池の中から一匹の大きな白い蛇が現れました。そして、水の上に首を持ち上げて、しばらく和泉どんの方をながめていましたが、やがて、日吉神社へ向かって、すべるように泳ぎ出し、そして、日吉神社の森の中に姿を消してしまいました。

娘さんの生まれ変わりのような、大きくて美しい蛇だったということです。

その後、人々は、この池を『和泉池』とも『雌蛇池』とも呼んで、この話を語り伝えたということです。

東金市教育委員会『東金の昔ばなし』(NTT)より