船越の宮(上の祠)の大石窟は、長尾村瀧口の瀧口明神の社中まで行程三里が間抜け通っていると伝わる。かつて修験者が犬を伴い確かめに入った。三日して犬は一毛もなく赤膚になりながら戻ったが、修験者は戻らなかったという。一方、白浜の人は瀧口の社に窟なしともいう。
船越の宮(現・船越鉈切神社)の社殿後ろに洞窟はあり、御本殿はその中に祀られている。この洞窟に住まう大蛇を海から来た神が退治したという伝説の地だが(「船越の宮鉈切の宮」)、その洞窟は長く続いているのだという。
長尾村瀧口というのは今の南房総市白浜滝口のことで、鎮座される式内論社:下立松原神社をかつて瀧口明神といった。上の話でも白浜の人は瀧口に洞窟などないと言っているが、今もそれらしいものは見えない。
ならばなぜそこへつながっていると語られたのかが考えどころとなるだろう。式内社をうたうことによっていまひとつ往昔の実態が把握しがたくなっている瀧口明神だが、船越・鉈切の宮を考える際には同時によく知るべき社であるのに違いはない。