鉈切山

原文

鉈切明神(下の宮)の背後の鉈切山(小山)は、高さ三仭ばかり、嶺より足に致るまで、鑿られて、両断されているが、これは、鉈切明神に鑿たれたものであるということである。鑿中の広さ三尺に足らないが、之より臨むに、海水盈々たるが見られるという。里人の言い伝えに、この鑿中、至孝の人は、傘を翳して通行出来るが、若し、不孝の者が、此処に入る時は、両山は、自ずと合さって、一つの山と態を変え、決して出ることが出来なくなるといわれている。(「房総志料続篇」)

『然れども、これまで、此鑿中に入りたる者なし。』と、「房総志料続篇」は、又言っている。

藤沢衛彦『日本伝説叢書 安房の巻』
(日本伝説叢書刊行会)より