ふしぎな弁天様

埼玉県児玉郡神川町

元阿保から四軒を通ると、延寿山妙法寺というお寺がある。参道わきの松の下に小祠があり、一五センチくらいの木の弁天さまの像が祀られている。このお寺の住職の息子さんが学校へ出る前、昭和三十年ごろのこと。梅雨も終わりに近づき、田植えも終え、楠川にほたるが飛び交うので、母にねだって捕りに行った。

その中、ひときわよく光るほたるが目の前を通り、息子さんとお母さんはそのほたるを捕ろうと近づいて行った。しかし、いくら行ってもほたるは近くならないで、とうとう仲間の友達とははぐれてしまった。それにも気付かず、母と息子は光るほたるを追い、やっと捕まえてみると、それは不思議に木のご神体となっていた。

そこで周りに友達も誰もいないのに気がつき、よく見ると、宮往還の近くにある、長幡の病院跡のお堀端だった。いつの間にこんなところまでと驚いた母と息子はほたるに化けていたご神体を持って家に帰った。そして、父に話して見せると、どうも祠の弁天さまに似ているという。

まさかと思い、祠を検めると、なんと祠の中には弁天さまは影も形もないのだった。これは弁天さまがほたるとなって、母子を川の危ないところから守ってくれたのだろうと、丁寧に供養し祠におさめ、よくおまつりしたという。

児玉郡・本庄市郷土民話編集委員会
『児玉郡・本庄市のむかしばなし』(坂本書店)より要約

神川町四軒在家という所に、妙法寺は今もある。というより、ごく最近の「不思議な出来事」ということで、世間話といえるだろう。弁天さまの祠がその後どうなっているのかは不明。名からすると日蓮宗のお寺だろうから七面さまではないのか、とも思うが。