煤川の下の部落の裏山のモミの大木に、ある日大蛇が女の姿に顕じて腰をかけ、子供に乳を与えていた。アクタツ太郎左衛門という弓の名人がこれをみつけて、上の部落の坂の上からこれを射た。蛇体はそのため傷つけられた。怒った大蛇は、やがてその巨体にものをいわせて山を引っくりかえして、川向いの山へぶっつけ、下煤川をおしつぶしてしまった。
この大蛇の霊威におそれた上煤川の人びとが祀ったのが、白蛇大権現諏訪大明神だという。
下煤川部落には、夏になるとススガワアブという、小さいくせにひどく痛く喰うアブが出る。このアブはこの山崩れで死んだ人びとの亡霊だという。(倉林正次「お諏訪さまの話」『芸能風土記』)