一ツ木に椀箱沼(一名宮川)があり、書を投ずると椀具を貸してくれたという伝説がある。昔、川中島の合戦に功あった信玄の家臣・原大隅守(美濃守虎胤とも、その三嗣原勘解由良房とも)は、信州諏訪湖の畔を与えられ治めていた。愛妻を亡くし子もなく暮らしていたが、そこによく仕えるおきくという女中がいた。
主人はおきくを後妻に娶り、可愛い子も生まれた。ところが、一ツ木へ移るという話に妻はうちしおれいうには、実は自分は諏訪湖の主の竜神の化身であるという。主人に子がないのを惜しみ、妻となったが、移ることはできない、と。そして、子のために宝珠を残すと、諏訪湖へ帰って行った。
主人は乳飲み子を連れて一ツ木に移ったが、子は宝珠をなめてすくすくと育ちやがて成人した。一ツ木の宮川は諏訪湖に通じているといわれ、生活上のものを何でも貸してくれた。それで椀箱沼といった。
この竜神の妻との間にできた子(娘とも原良清であるとも)が亡くなると百八の燈篭がついたというが、それで諏訪湖との縁も切れたという。宝珠は箕田郷の精舎に納められた。それでそこを龍珠院という。沼のほとりには良清の墓という塚と原家による天保十三年の碑文がある。