逆杉

原文

(1)八和田神社には五人抱え位の杉の大木がある。人が死んで四十九日経たないでこの神社にお参りすると、この杉の木の洞穴から白い蛇が首を出し、参拝にいった者はふるえて帰るという。この杉の木は昔、大水のあったとき、流れて来て、根が上になり、枝が下になってついたものだという。(栗原克丸『比企郡小川地方の昔話拾遺』)

 

(2)右について千野幸三郎氏は、「小川町奈良梨の八和田神社にある。周囲十五尺位、幹下三十尺位。その上部より根のような枝十数本出ている。如何にも逆杉の如し」と報じている。(資料提供者・比企郡小川町高谷 千野幸三郎氏)

 

(3)大塚菫氏によると、右の逆杉は、昔、信州諏訪の大祝諏訪小太郎頼水が、東国に降る折、氏神(諏訪神社)のご託宣によって、御神木のささったところを住居にせよとのお言葉によって、御神木の枝を千切って東方に投げたところ、奈良梨に飛来して、逆さに突きささり、そのまま根を下して成長していったものという。

なおこの杉には昔から白い蛇が眷族として住んでいて、おそれられている。諏訪氏はこの近くに館を建てた。この杉は、昭和四十一年九月の二十六号台風によって折れたので伐採された。(資料提供者・比企郡小川町 大塚菫氏)

比企郡小川町奈良梨 八和田神社

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・上』
(北辰図書出版)より