雷電池の大蛇

原文

むかしむかし、鶴ヶ島の膝折(すねおり)にある雷電池(かんだちがいけ)は、たいそう広く、いつも豊かに水をたたえていたそうな。池の底には、大蛇が住んでいたと。大蛇は、水の神様だったそうな。村人は、池のそばに雷電(らいでん)神社を建てて、水神様の大蛇をまつったと。

日照りの年には、村人が総出で、水神様に降雨祈願をしたそうな。すると大蛇は、必ず雨を降らし、田畑をうるおしてくれたと。

さて、ある年、村では田んぼを増やして米を作ることになったそうな。雷電池も埋め立てられて、だいぶ小さくなってしまったと。

大蛇は、急に住み心地が悪くなったため、上州(群馬県)の板倉にある大沼に移り住んだそうな。

その次の年、春から夏にかけて、鶴ヶ島には雨が一滴も降らない日が続いたと。田んぼは干上がり、畑の作物は枯死寸前となってしまったそうな。

村人たちは、必死になって水神様に雨ごい祈願をしたと。しかし、いくら祈っても、雨は少しも降ってくれなかったそうな。一人の村人が、

「大蛇様のいる上州で祈れば、雨が降るだんべえ」

と言ったので、一同は上州へ行くことにしたと。

大沼まで出向いた村人たちは、神官と共に一昼夜、祈り続けたそうな。お祈りが終わると、竹筒に大沼の水を入れて、鶴ヶ島に持ち帰ったと。

雨ごい祈願は、雷電池のほとりでも行われていたそうな。その時、遠くから、

「おーい、大沼のお水を持ち帰ったぞー」

と言う声が聞こえると、今まで雲一つなかった青空に黒雲が現れ、雨がポツポツ降り出したそうな。しかし、しばらくすると雲が散って、晴れ間が出てきたと。

村人たちが、がっかりしていると、再び黒雲が集まってきて、雷電池の上で大きな雷が三度もとどろきわたり、どしゃ降りの雨になったそうな。こうして農作物は息をふき返し、村は救われたと。村人は、水神様の大蛇に心から感謝したそうな。

市川栄一『小江戸の民話』
(さきたま出版会)より