弁財天三体地蔵尊のはなし

埼玉県上尾市

ある時、仲町のある店の軒下あたりから、何か黒いものがずるずると這って出てきた。ナマズの様で正体不明なその黒いものが気味悪いので占い師に見てもらうと、地蔵を救ってもらいたいので、竜神を現したのだと告げられた。

その地蔵とは弁財天三体地蔵尊で、柏座地区に何年も埋もれ踏みにじられているのだという。黒いものは消えたようだが、家族はお告げに驚いて、翌朝早くから言われた草原に行ってあちこちを掘り上げた。すると、カチンと音がして、そこには本当にお地蔵さまがうつ伏せになっていた。

このお地蔵さまが祀られると、沢山の人がお参りに来て、造った絵馬堂に絵馬があふれるほどになった。そうしてさらに遠くの人も噂を聞いてやって来るようになったが、ある日、このお地蔵さまが無くなってしまった。

半ばあきらめまた占い師に尋ねると、お地蔵さまは三年以内にもどるといわれた。そして、不思議なことに本当に一年後にもとのところにお地蔵さまは戻ったのだった。今はお堂も改修され、お地蔵さまは優しく微笑んでいる。

上尾の昔話と民話の本を作る教室
『上尾のむかしばなしとみんわ』(上尾市立中央公民館)より要約

埋もれている神仏(像)がこれをうったえ、本当に見つかる、という話は枚挙にいとまなくあるので、ここはよいだろう。「弁天地蔵」なるものがどういうものか全くわからないのでここも保留する。竜神がうったえたというのだから、ただのお地蔵さんではあるまいが。

面白いのは、そのうったえが夢枕に立つなどではなく、鯰のような黒い気味悪いものがずるずる這いだすという形をとっているところだ。「竜神を現した」と言っているのだから、それが竜神なのだろう。

どことなく豊年魚のような雰囲気がある。あるいは、そういった妙な絵柄の竜神のお札が流行っていたということなどはなかろうか。