象殿の池

原文

本郷の定光院が西山にあった時、この池に大蛇がすんでいた。この大蛇は度々女に化けて寺に来たという。ある時化けて和尚の前に現われ、私はこの土地にいられなくなったからといって形見に酒徳利をおき、この酒を飲んだら少し残しておけばいつでも一杯になるといいおいて、どこへともなく行ってしまった。ある時和尚の留守に、小僧がみんな飲んでしまったのでそれから酒は出なくなってしまったという。定光院の本殿の天井の蛇はその蛇を描いたものという。(旧大里郡岡部町本郷:『本郷村郷土史』・『川越地方郷土研究』第四冊)

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・中巻』
(北辰図書出版)より