元宿の沼 埼玉県東松山市 昔、元宿の沼に美しい姫がいた。旅の武士と夫婦となり幸福に暮していた。そのうちに二人の間に出来た子供が六歳になった。すると姫は「もうこの子も心配にならない歳になった」といって沼に入ってしまった。姫は沼の龍神であった。 その後武士の家に何か祝事があると、必要なものはこの沼から出て来て少しも不自由しなかったが、或る時、女中が借りた一枚の皿を誤ってこわしてから、ぴったりと出なくなってしまったという。(『川越地方郷土研究』第四冊) 韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・上巻』(北辰図書出版) 東松山市の蛇女房からの椀貸し淵の話。武家が池沼の竜を妻とするという筋は、吉見一ツ木の原家の伝(「椀箱沼」)と似ている。さらに、原家のほうではその妻に来た諏訪この竜神が「おきく」であるというが、こちら元宿では、女中が皿を割っている。 一般に椀貸し淵が膳椀を貸してくれなくなるのは、借りた村人が返さないのを怒って、という筋になるものだが(「底なし沼の膳椀」など)、皿を割ってというと皿屋敷の要素が入っているような気もする。土地柄もあり、この点は要注意かも知れない。 ツイート