龍神さま

埼玉県本庄市

昔、沼上近くの児玉の町東に清水池があり、清水川の源になっていた。この池には変事の前に姿を見せる蛇の主がいて、蛇神さまと呼ばれ近隣にも知られていた。また、この蛇は各家のネズミ除けとしても大切にされており、池に行って蛇さんに頼めば、七日経たぬうちにネズミがいなくなったという。

ところが某家が祈願しても一向にネズミが減らないので、直接かごに迎えて蛇さんを連れていくことにした。清水池端の爺さんの話によると、どうも近頃蛇さんも年をとって、隠居じゃないかという。しかし、蛇さんは応じてかごに入り、その夜のうちに某の家のネズミは一匹もいなくなった。

それより蛇は見られなくなってしまったのだが、その噂も消えようかという頃、清水池端の爺さんが寝込んでしまった。これを御嶽講の先達に見てもらうと、蛇が祟っているという。そして、あの蛇は十条沼の大蛇退治の折、贖罪をするよう生き長らえさせられた一匹で、今日までこの地方を守ってきたのだ、と明らかにされた。

それが少し昼寝をしていたくらいで隠居といわれたもので、先祖の墓のある骨波田に去ってしまった、と。しかし、もう戻りはしないが、屋敷に祀るならたちまちに病は治そう、とも告げられた。皆は十条の大蛇の子孫だったか、えらいことになった、とあわてて、龍王大明神と祀った。

田島三郎『児玉の民話と伝説・上巻』
(児玉町民話研究会)より要約

もっとも、御嶽講の先達がそういった、のであって、代々そう伝わったというわけではなさそうだが、川の西にかけてもこのように「十条の大蛇といえば」が通じた、話が敷衍していた、というところが見て取れる話ではある。

また、これが大同の話では悪い大蛇という一方だけれど、土地のその蛇への感覚としてはそう単純でもない、という一面が見える一話でもある。ここまでくると、祀った社のひとつもありそうなものだが、今のところ見えない。