女に化けた白蛇

埼玉県川口市

昔は蛇が多かった。庭や土蔵、田の道にもよくいた。見沼代用水沿いのおくまんさまの杉の木を切った時に、その洞からは、四斗樽に二杯の蛇がとれたという。蛇の話も多く、そのひとつに蛇が女に化けたという話がある。この話も伝える人が少なくなった。

辻に大きな機屋が稲荷を祀っていた。その後ろに大きな木があり、稲荷の御神木といわれたが、大きくなりすぎ切り倒すことになった。臼屋が引き受け、切り倒すことができたが、うつろになっていた切り株の中心から白い蛇が出てきた。

白い蛇はそう珍しくもないかもしれないが、この白蛇が臼屋の前であっと言う間に若い女に化け、しかもお稲荷さんに色目を使いながら、しやなりしやなりと近づいていくのだった。蛇が化けた女が稲荷に色気づくなどただ事ではない。臼屋さんは無我夢中で白蛇の女に斧で打ちかかったという。

その白蛇はその一撃で殺されてしまったのだろう。その崇りかどうか、臼屋は間もなくふとした病気がもとで死んでしまった。その後、誰ということなく、御神木の切り株の穴に米をあげて、白蛇の霊を慰めたという。

白石敏博・岡田博『鳩ヶ谷の民話』
(鳩ヶ谷郷土史研究会)より要約

御神木に蛇が棲みついており(あるいは御神木の化身が蛇であり)、その木を伐り倒した際蛇も切り殺され、結果伐った人が祟られる、という話はまことに多い。しかし、その白蛇が女に化け、稲荷に色目を使ったというのは、何のことやらわからない。

竜蛇と関係のある稲荷というのも、端的にはその本体が蛇だというものまで少なくないが、このような筋書きで何かを語ろうとしている話というのは他に見ない。世間話というのは伝説・昔話と違って必ずしも精製された構成を持つわけではないが、何か脈絡というものはあるだろう。