川越築城

埼玉県川越市

太田道真、道灌父子が、川越城を築くにあたり、囲む水田、殊に南の七ツ釜という底の知れない淵に阻まれ、土塁がなかなかできなかった。これに弱っていたある夜、道真の夢枕に竜神がたち、人身御供を出すならば築城は速やかに成就するだろう、と告げた。

そして、明朝一番早くに来たものを差し出すがよい、と竜神は言った。道真はあまりのことに悩んだが、築城のためにはと承諾した。朝一番にやってくるのは道真の愛犬であると分かっていたこともあった。そして、あわれと思いつつも朝愛犬が来るのを待った。

ところが、その朝来たのは愛犬ではなく最愛の姫、世禰姫(よねひめ)であった。あまりのことに道真は失神せんばかりだったが、実は姫も同じ夢を見、自ら犠牲になろうと決心して一番に父のもとを訪れたのであった。

いくら城のためとはいえ、それは親にできることではなかったが、姫の決心は固かった。世禰姫は夜に一人館を抜け出すと、単身七ツ釜に身を投じてしまった。この貴い犠牲により、川越城は完成されたのだという。

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・中』
(北辰図書出版)より要約

またの話に(どれも川越城七不思議)、城の若侍と結婚したが、姑に責められ帰され入水した百姓の娘の名が「およね」であった、というものもあり、ヤナ・ヨナが棲むよな川の名が先にありきという感じではある。

しかし、実にあちこちで太田道灌(この場合は父の道真だが)の築城や寺の建立などに竜蛇が付きまとう。それはなぜか、と問うた例はあるだろうか。