ヤナ

埼玉県川越市

川越城の外を取まく要害をよな川といった。その広さは僅か六七間にすぎず、あまり深い川ではないが、百万の軍勢でもこれを越えることができないといわれている。
これは昔からこの堀にヤナという主が住んでいて敵を寄せつけないためである。よってよな川とよんでいる。
十方庵が、それはどんなものかとたずねると、土人のいうのには、このヤナは東南の方の芦の茂る深いところに住んでいて、女だとばかりいい、こわがってくわしくは語らなかった、とのことである。(十方庵『遊歴雑記』初篇の下)

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・中』
(北辰図書出版)より