川越城は平野にあったので、太田道灌は霧吹きの井戸を造った。井戸の蓋を開くと限りなく霧が立って城も町も隠れるので、この城は(平野にあっても)落ちない、と士気を鼓舞した。上杉・北条の戦に一年三年という籠城があったが、城は落ちなかった。
井戸は蓮池御門の東南にあり、天神様から細道を行った。拝観の際は白い幕が張られ役人がつき、通る人を調べたという。これが「ここはどこの細道じゃ」と歌われたのだ。今の初雁球場の北にある井戸は新しく移されたものである。
霧を吹くのは「ヤナ」という怪物だと記したのは『遊歴雑記』だ。天神下の濠は伊佐沼に続いており、ヤナという正体不明の怪物が霧を吹いて城を隠すのだとある。