霧吹きの井

埼玉県川越市

川越城は平野にあったので、太田道灌は霧吹きの井戸を造った。井戸の蓋を開くと限りなく霧が立って城も町も隠れるので、この城は(平野にあっても)落ちない、と士気を鼓舞した。上杉・北条の戦に一年三年という籠城があったが、城は落ちなかった。

井戸は蓮池御門の東南にあり、天神様から細道を行った。拝観の際は白い幕が張られ役人がつき、通る人を調べたという。これが「ここはどこの細道じゃ」と歌われたのだ。今の初雁球場の北にある井戸は新しく移されたものである。

霧を吹くのは「ヤナ」という怪物だと記したのは『遊歴雑記』だ。天神下の濠は伊佐沼に続いており、ヤナという正体不明の怪物が霧を吹いて城を隠すのだとある。

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・中』
(北辰図書出版)より要約

してみれば、ヤナ・ヨナを「大蛇の類なるべし」というのは妥当だろう。しかし、川越城に関してはいくつか注意を要する関係話がある。まず、その怪物が棲むというのが「よな川」なのだが、それは責められ入水した「およね」という娘にちなむという。この場合「遊女川」とも書く。

蜃気楼を起こす蜃は二枚貝にイメージされるが、字のごとく竜であるともいう。先にあげた他の霧隠城の話で蜃気楼(貝)を気にさせるような要素は現状見当たらないため、これは川越の見るべき点であるかもしれない。これらのことは気にしておくべきだ。