蛇玉ぁ見た娘

原文

むかし、滝川の近くにゃあ、うんと(たくさん)蛇がいたんだと。

昔の人たちゃあ、その蛇が、蛇玉(蛇が一か所にたくさん集まって、玉のようになっているようす)になっているのを見ると、金運がよくなるって、ゆわれていたんだとさ。

ある土用のむす(暑い)日だったんだと。村の娘が、野良仕事からけえる(帰る)途中、竹やぶの裏まで来ると、竹やぶん中で、スットン、スットンちゅう、めん(うどん)のぉうつような、変な音がしてるんだとさ。村の娘は、かついでいた、てん鍬でささっぱあ、ちょろりかきわけて見たんだとさ。そうしたところが、竹やぶの、うすっくれえ中に、一尺もあるような、でっけえ玉がぶゆぶゆ、ぶゆぶゆ動いているんだと。娘はすっかり、たまげちゅうまって、

「動いてるなあ、なんの玉だんべえ。おかしなもんがあるもんだ。わしの目が、ちっとんべえ(少し)おかしくなったんだんべえか」

っていいながら、手で自分の目ぇ、ようくこすってから、またその動いている玉ぁ見たんだと。そうしたところが、その玉ぁ、蛇が幾匹も集まっていて、でっけえ丸い玉になって、動いてるんだとさ。

その娘は蛇が生まれつき、うんときれえ(いや)のたちなんで、蛇玉ぁ見ると、がたがたふれえだしちゅまったんだと。そんでも娘ぁ気ぃ強くもって、近くにその娘のおっちゃん(おじさん)が、野良で、かせえで(働いて)いるもんで、

「おっちゃあん、竹やぶん中に蛇玉だあ。助けてくんな。助けてくんなあ」

ってでっけえ声でどなりながら、おっちゃんの働いてる畑の方へ飛んでったとさ。おっちゃんは、

「ふんとう(本当)に蛇玉か。おれもひと目見てえもんだ。待ってろう。待ってろう」

ってどなりながら、竹やぶまで、すっ飛んで来たんだと。そうしたところが、娘もおっちゃんの、かとうど(加勢する人)ができたんで、気がでっかくなって、また竹やぶまで飛んで来たと。おっちゃんなあ娘に、

「蛇玉ぁどこだ。どこだ」

って聞いたんだとさ。娘ぁ蛇玉のあった所を、

「ここんちらあ(この辺)だ」

っておせえたと。ところがいっくら見ても、蛇玉ぁどこかへ逃げちゅうまって、めっかあねえ(見つからない)んだとさ。

おっちゃんなあ、

「ああ、ばかぁ見た。蛇玉ぁ見りゃあ、それっから、うんと金運がよくなるんになあ」

ってゆって残念がったんだとさ。

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化事業振興会)より