船に乗る娘

群馬県利根郡みなかみ町

昔、ある殿様のお嬢さんが十六(十七とも)のとき、毎晩男が通ってきた。お嬢さんは一目惚れし、男の着物の裾に針をつけてやった。そして、糸をたどると、赤城の沼へ着いた。

そこにはとても立派な船が浮いていて、お嬢さんは船に乗って行き、帰らなかった。何日もお嬢さんが捜されたが、ある月のきれいな晩に、きれいな蛇の背中にお嬢さんが乗って現れ、私のことは忘れるよう告げ、沼の奥へ行ってしまった。それで、十六歳の娘は赤城の沼へ行くものじゃないという。(利根郡水上町藤原)

『日本伝説大系5』(みずうみ書房)より要約

船で行くというと結婚というより葬儀のようだが、神婚とあったればそれはほとんど同じようなものである。なぜ離れた利根の藤原のほうでこうして語られたのかは不明だが、赤堀家が祖神のことを語りたかったのならば、こういう話がもっとあったのだろうと思わされる。

それが対極なのか、実は隣接なのかは考え所だが、今の我々が受ける印象は大きく異なるだろう。