靴ヘビ

群馬県吾妻郡長野原町

ヘビを殺して、頭を切って、そのまんまぶちゃると、頭だけ生きていて、人がそこを通ると、靴ヘビになって、その人の足にかじりつく。だから、ヘビを殺したら、頭までよく殺せといった。（林・篠原きぬ）

むかし、草刈りに行って、まちがってヘビの頭をもいでしまった。そしたら、ヘビの頭が化けて来たという。
だから、ヘビの頭を切ったとき、頭を山に置いてくるもんじゃないという。（羽根尾・加部つねし）

八ツ場ダム地域文化財調査会 昔話部
『長野原町の昔ばなし』（長野原町）より

長野原の蛇の怪の話。「くつへび」というのは他に聞かない。おそらく「くちなわへび」からの転訛ではないかと思う。そうならば、一般の蛇が頭だけ生き残り、くちなわの怪蛇となるのだ、という話になるだろうか。

しかし「頭だけの蛇」というようなイメージがあるのだとしたら、単にくちなわだというわけでもなくなるだろう。そのようなイメージもあまりないが、東三河には頭だけの鰻の怪の話はある（「琵琶ヶ淵」）。

蛇にしろ鰻にしろ、頭だけ切っても生きて咬もうとしたり、口をパクパクさせたりするので、その生命力への畏怖から起こったイメージだろうか。同長野原には、なぜか葱と一緒にすると蛇は甦るという考えもあったようで、そのあたりも見ておきたい（「ヘビとネギのことなど」）。