刀が蛇になった話

原文

昔、相原の神主が秩父の山での修行を終え、立派な刀をもらって一路相原めざして帰ってきた。村境の屋久(やきゅう)峠まで来たが歩き疲れたので、刀を大木に立て掛け、いっぷくした。ところが、旅の疲れと峠をわたる風の心地よさが手伝って、ついうとうとと寝込んでしまった。そこへ若い侍が通りかかり、大木にたてかけてあった立派な刀を目にとめた。辺りを見回したところ、さいわい持ち主は昼寝をしているので「これはしめた」と、手をだしたとたん、刀はみるみるうちに蛇に変わり、大木に巻きついた。驚いた侍は、自分の刀で蛇に切りつけた。その騒ぎで神主が目を覚ましたので、侍はいちもくさんに峠を下っていった。神主は刀を持ち帰り、(丹生)神社に奉納した。今神社にあるその宝剣には、先の方にそのとき受けた傷があると聞いている。しかし刀を抜いたとたん、にわかに曇り出し、あたり一面暗くなり、雨が降り出すという言い伝えがあるので、それを恐れていまだにその傷を見た人はないという(万場町・まんばのむかしばなし)

土屋政江『多野・藤岡の蛇の話』より