蛇神様

原文

上野村黒川に蛇神様が祭られている。利根平から右に入り、十石峠の街道沿いだが、集落の手前、道の右上にある。自然石で傍らに小さい祠があり、ご神体は生きた蛇。この石の割れ目に、蛇が姿を見せると変わったことがあるってゆう。

昔、でっかい蛇が谷を挟んで木から木へ横になってて、そこを通れなくってみんなが困ってた。ちょうど通り掛かった行者が見兼ねて、蛇神様をこしらえて、念力で封じ込めた。みんながとても嬉しがったちゅぅ。

四月八日がお祭りで、卵を進ぜて拝む。ご神木の藤の根っこを誰かがけっとばしたら、そのあと歩けなくなったそうだぃ(上野村黒川)。

 

利根平の、昔の橋を架けるとき、この蛇神様で蛇がめぇるちゅぅ評判が立ったもんだから、橋架け人夫が二人でそれを見に行って、背中が少しめぇる蛇を棒でつっ突いてかまっただと。そのあと二人はその日のうちに、橋からはたき落って大怪我をしたちゅぅ。その少し前にゃぁ、薬売りが通りかかって、人夫と同じように蛇をかまっただと。そうしたらその晩から足が動かなくなったそうだぃ。神様に祭ってるだから、そおっとしときゃよかっただぃね(中里村神ヶ原)。

 

小林中組に蛇神様の祠が祭られている。以前松井家が祭っていたが、同家が絶えたので近所が面倒を見ている。傍らに二~三人でなければ抱けないエノキの大木があり、うろ穴に蛇がうんと住んでいた。蛇はアオダイショウで、ネズミ除けとして信仰された。養蚕の時にネズミ除けを頼みに行くと、目に見えない蛇が来てくれるので、ネコを飼っているようにネズミがいなくなるという。そこで、卵を持ってお礼に行き、供えてくる。この蛇神様は諏訪様ともいわれる。エノキは古い大木が枯れて、二代目が大きくなって現存する(藤岡市小林)。

土屋政江『多野・藤岡の蛇の話』より