蛇になって来たおかみさん

原文

仲のわりい夫婦がいてのお、ねんじゅう、けんかべえ(ばかり)してたんだとさ。

蚕があるころ、ちいっとしたことで、その夫婦ぁ、でっけえけんかぁしたんだとさ。そらぁ、いつにねえ、でっけえけんかだったんだとさ。村の衆も、

「また、けえきよくやってらぁむし」

っていって、とめにへえる者も、いなかったんだとさ。ところが、そのけんかのさいちゅうに、おかみさんの方が、てえへんくやしがってのお、

「死んで蛇んなって、ばけてやるからみてえろ」

って、だんなにゆって、家ぃ出たまま、けえらなくなっちゅまったんだとさ。ところが、いくんちかしてむし、その女の人の死んださた(連絡)があったんだと。

その後、だんなぁ、よるんなるたぁ、夢みが悪くってむし、夢にうか(な)される晩が続いたと。そうこうしているあいだに、盆が来たんだと。座敷ぃ盆だなぁかざってむし、盆むけえをしてきてみると、盆だなの上に、なにかいるんだとさ。よくみると、太え蛇が、まるくなって、だんなぁよくみてるんだとさ。だんなぁ、その蛇ぃみて、チンゲ(後頭部の毛)ぇ水ぅ流すように、さむけがしたと。だんなぁ、その蛇に向かって、

「やっぱり、オメエは化けてきたんだなぁ」

って震え声でいいながら、その太え蛇ぃ青竹へつっかけて、前の水ったまりぃぶっちゃって(なげすてて)来たんだと。すると、その太え蛇は、水ったまりからはいでえてきて、またするする盆だなにへえ(はい)上って、かま首ぃあげてジロリジロリあたりぃみてるんだとさ。うちのもんも、近所の衆もその太え蛇ぃみて、

「盆なんで、死んだおかみさんが、やっぱりばけて出たんだ」

っていいながら、おそろしがったと、だんなも、その蛇にゃあ困っちゅまってむし、

「これじゃあ、近所の衆に新盆ぶるめえができねえ」

っていいながら、こんだぁ、その太え蛇ぃ、ぐいとひっつかんで、おもてぇさらべえ出した(投げ出した)んだとさ。ところが太え蛇ゃあ、ぐるりとてえをけえして(体をかわして)、だんなより先ぃ、うちんなけぇへえり込んで、また盆だねぇへえあがって、うちの者を困らせたんだと。

盆がすぎてまもなく、二度目にもらった嫁ごも死んじゅまったんだとさ。村の衆は、

「あらぁ、はじめに死んだおかみさんのばちだ」

っていったんだとさ。(北橘村)

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化振興会)より