死者と蛇 群馬県館林市 ・ある家の家主が亡くなった。その後、蛇が庭に多く出るようになった。人が死ぬと長虫になるから、庭に出る蛇は、きっと死んだ家主に違いないと言われている。 ・夫が死んで半年後、息子が牛舎で仕事をしていると、ネズミを途中まで飲んだままの蛇が上からバタンと落ちてきた。蛇は殺してはいけないと言われているので、こやし袋に入れて近藤沼へ逃がしてあげた。息子の仕事具合が心配になって、夫が蛇になって現れたのではないかと信じている。 『館林市史 特別編第5巻 館林の民俗世界』より 極めて重要な伝承。市史上の「暮らしの中の世間話・蛇とムジナの話」という短いレポートが並べられている中より抜き出し、独自にタイトルをつけた。これはつまり、人が死んだら蛇になるということをダイレクトにいっている事例である。 常陸の霞ヶ浦の南の方で、故人の魂は蛇となって、四十九日の間は屋根にいる、といったり、伊豆の日金山は年忌や盆などに登ると故人と会えるという信仰のある山だが、そこではその道行きに出てきた蛇は帰ってきている故人なのだ、といったりする。 同じく「家の周りに出入りする蛇は、家の先祖様の化身だ」と勅裁に言うのは駿河駿東の「蛇」の話などにも見える。この館林の話も、これらに連なるものといえるだろう。どちらの話も、屋敷神(祖霊)との結びつきの強い感覚が示されている。 こういった感覚が敷衍していたとしたら、それは灌仏会の日に姿を見せる白蛇(「白いへび」)などが何であるのか、ということを考える際のヒントになると思う。 なお、同館林では、同じ感覚のあらわれと思われる、生涯お婆さんを守った白蛇の話も同箇所に収録されており(「頭の上の守り蛇」)、併せて見ておきたい。 ツイート