老神

群馬県沼田市

日光様の主は百足で、赤城様の主は蛇だった。中禅寺湖の中に上州島というのがあって、その島のとりっこで、二人の神様が戦争をした。「上州だ」「いや野州のものだ」ちゅうで、戦場ヶ原で戦っていて、赤城様が勝ちそうになった。そしたら、そこへ鹿島様が日光様の手伝いにきて、赤城様のほうがおんまけてしまった。赤城様は逃げてきたが、日光様に追いかけられながらも、ようやく追貝まで来て逃げのびることができた。赤城様はけがをしていて、老神のお湯に入ってきずを治したという。(利根郡昭和村森下:伝承者 広田実)

日光と赤城の神がむかし境界争いをやった。日光が百足、赤城が蛇になって戦った。そのとき、蛇が負けてけがをした。山を下って老神まできて、水で体を洗うべえと思ったら、それが湯だった。そこできずを治したという。(太田市牛沢:伝承者 清水主税)

『日本伝説大系5』(みずうみ書房)より

こういった話があるので、一概に百足をトーテムとする赤城と蛇をそれとする日光の争いがあった、などとはいえなくなる(大蛇同士の戦いだった、というものもある)。負けたほうが百足とされたのじゃないか、などと私が思うゆえんだ。