蛇川の由来

原文

新野のムラに、魚獲りとたきぎとりとを生業にしていた一人の男がいた。男は、ムラの東を流れている川のほとりに粗末な家を建てて住んでいた。この男の家には、毎年ツバメが飛んできて巣をつくっていた。

ある年の秋のこと、南の暖かい国へ帰って行くツバメに、男はこう話しかけた。

「ツバメよ、お前は毎年この家へやってくるが、ただの一度も土産を持ってきたことがないけれど、どうして持ってこないのか」

ツバメは黙って聞いていたが、そのまま飛んで行ってしまった。

すると、翌年の夏、またツバメは飛んできた。見るとツバメは口に小さな桐の箱をくわえている。そして、その箱を座敷の真ん中に置いた。男が箱を開けてみると、中には小さなヘビがたくさん入っていた。そのヘビがしだいに増えて、とうとう家の中から近くの川の中までいっぱいになってしまった。これでは、川で魚を獲ることもできない。困り果てた男のムラでは、なんとかヘビを防ごうと思って神をまつったところ、たちまちヘビはどこへともなく姿を隠してしまった。それから土地の人たちは、この川を蛇川とよんでいる(新野)。

『太田市史 通史編 民俗(下巻)』より