むかし（佐波郡赤堀村に）赤堀道元という分限者がいた。子供がなかったので、赤城の神にお願生かけたら、玉のような女の子が生まれた。その子には、腋の下にうろこがあった。十六歳になったとき、赤城明神に行きたいというので、大勢の腰元・番頭を連れて、馬の行列で行った。赤堀から月田の近戸神社の橋を通って、神社の裏まで来たとき、馬が疝痛をおこしたので、馬の鞍をおろして馬を休ませた。そのとき鞍を置いた石を、鞍掛け石という。それから、お駕籠を呼んで、娘はお駕籠に乗って、月田から板橋の鳥居（百足鳥居という）のところへ出て、そこから小沼へ行った。娘がのどがかわいたという。腰元が水を汲んできてやると、その水をうまそうに飲んで、もう一杯と、自分で（沼のところへ）飲みに行った。そして、娘は着物を着たまま、沼の中へとびこんだ。一天にわかにかきくもり、雨が降りだして、湖面から（娘は）竜の姿になってでてきて、「わたしは大蛇の申し子です。（家の者に）よろしく言ってくれ」といって姿を消した。腰元や番頭は、新里の奥沢へ出て帰ってきた。そこの並木というところまできて、責任を感じて自害してしまった。奥沢の分限者小野里喜左衛門という人の先祖が、その話を聞いてあわれに思って、ねんごろに供養してそこに五輪塔をたてた。その五輪塔は奥沢の並木のところに今でも建っている。（伝承者 長沢平八 勢多郡新里村山上）
※原題は「赤堀道元の娘」