賀茂さま蛇

群馬県桐生市

家にアオダイショウが出ても、それは「賀茂さま蛇」といって賀茂の神様のお使い姫だから、悪戯もしないし、叩いたり追い払ったりしてはいけない、と言われた。広沢地区の上野国十二社のひとつ、式内社の賀茂神社のお使い姫が尻尾の切れたアオダイショウなのだった。

土地は養蚕農家が多く、天敵のネズミを駆除してくれるのがこの賀茂さま蛇のアオダイショウなのだった。毎年養蚕をする農家はこぞって賀茂神社に詣でて、ネズミの駆除をお願いし、お使い姫を借りて帰った。しかし、賀茂神社の蛇にも限りがあるので、何十回祈願しても駄目な人もあった。

それで困った養蚕農家の人たちのボヤキが神様にも聞こえ、考えた神様は、絵馬の図柄を蛇にしてお使い蛇の代わりとすることにした。それから、鎮守さまではお使い姫の代わりに蛇の絵馬を貸し出すことになったのだという。

清水義男『ふるさと 桐生の昔話 第9集』
(日刊きりゅう)より要約

桐生の賀茂神社といえば豊城入彦命勧請と伝える押しも押されもせぬ一帯の古社であり、山田郡の式内社である。山田白滝の山田郡だ。賀茂神社には境内社に豊機社とあり、白滝姫を祀るようなので、そこは勘案しておいたほうが良いかもしれない。

ともあれ、上州も東に来るとまた養蚕守護の蛇の神さまの様相も違ってくる、ということではある。また、ここに限らずお使い蛇の貸し出しは多く絵馬によって表現されるものだが、その由来を語っているという点で珍しい話でもある。