蛇に見放された村の衆

原文

鎌塚のカンネンブツにゃあ、ほうばらじゅう(四方八方)の蛇がマケん(群に)なって住んでるんだと。このカンネンブツのことを、蛇の神様って村の衆はゆってたんだと。

蚕どきなんか、ねずみが出て、けえこをくい殺すと。村の衆はむし、カンネンブツへいってのお、

「ねずみん畜生が出て、困るから、ヘビ神様、おたのもうします」

っておがんでくると、その晩から蛇がこだくさん(たくさん)現われて来て、はりぃ渡り歩いたり、屋根裏ぁねずみぃ追いかけ、ねずみが追いきるとむし、でえどころんとけぇぬいどく、ぞうりの上へたぐろを巻いて、いねぶりぃしてるへびもいるんだとさ。それでもカンネンブツから頼んできた蛇ゃあ、人間をかじったり、悪いこたぁぜってえしねんんだと。

あるとき村の衆のうちぃ、ねずみがてえへん出てむし、こく箱(穀物を貯蔵する場所)んなけぇえれて、でえじにしといた赤もろこしぃ、こだくさん食われちゅまったんだとさ。村の衆は、

「ねずみん畜生ひでえことをしてくれた、このまんまじゃあすまさねえ」

っていって、カンネンブツへとんでってむし、

「わしがでえじにしてた赤もろこしぃ、ねずみのやつに、くいっちらかされちゅまった、蛇神様お助けくだせえ」

っておがんできたと。すると夜んなると蛇がくるとも、くるとも、村の衆んちぃせきなしへえってきて、ねずみぃみんなくっちゅまったとさ。村の衆はうれしくってむし、その晩のうちに、メンパ(丸い木製の容器)におさご(神様へ奉納する米)をこだくさんえれて、カンネンブツぅおがみにいったとさ。それで、うすっくれえカンネンブツの塔ん中ぁ、そおっとのぞき込んでみたと。するとむし、ほおたろ(ほたる)みてえに、ピカピカ光る蛇のまなこが、七、八十集まって、話し合えしてるんだとさ。それで、

「今夜くってきたねずみゃあ、赤もろこしなんかくってたんで、あんまりうんまくなかったなあ」

って話し合ってるんだと。それぇ聞いた村の衆は、持ってたおさごをひっつかんで、蛇の目ぇめがけて、ぶっつけたと。するとむし、今まで光ってた蛇の目がぱっと消えて、塔の中ぁ真っ暗んなっちゅうまったと。村の衆は、しぶしぶうちぃけえって来たとさ。しばらくして、村の衆んちぃねずみが、また、うぞうもぞう(きりもなく)出たんだと。村の衆はまたカンネンブツへ頼みに行ったと。しかし、いっくら待っても、蛇は一匹もきなかったんだとさ。

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化振興会)より